2026年10月2日、三菱重工業が山口県下関市の人工島「長州出島(ちょうしゅうでじま)」に、新たな造船関連工場を建設する計画を発表しました。
投資額は約1,000億円。下関市から取得した土地は約14.4ヘクタールにもなり、2030年の操業開始を目指すと報じられています。
このニュースを見て、個人的にいくつもの素朴な疑問が浮かびました。
私は造船業の専門家ではありませんが、「長州出島ってどこ?」「そもそも何のために造られた島なの?」「なぜ今、三菱重工が進出するの?」など、読者の皆さんも気になりそうな点を、地図や過去の資料を使って一つずつ調べてみました。
特に興味深かったのは、今回の土地取得が、約30年にわたって整備されてきた人工島の歴史にとっても、一つの大きな節目となっていることです。
新工場の場所だけでなく、移管元となる江浦工場との位置関係や、長州出島の開発の歩みについても、できるだけ分かりやすく整理していきます。
この記事の要約(2026年10月3日現在)
- 三菱重工が下関市の人工島「長州出島」に約14.4haの土地を取得しました。
- 移管元は彦島にある下関造船所・江浦工場。ただし工場全体の移転ではなく、一部機能の移管です。
- 長州出島は1990年代から整備が進められてきた国際物流拠点です。
- 産業ゾーン11区画のうち、既存の1区画を除く10区画を三菱重工がまとめて取得しました。
- 2026年7月9日に売却の仮契約が結ばれており、10月2日に正式な取得契約が発表されました。
- 新工場は2027年に着工し、2030年の操業開始を目指しています。
三菱重工の下関新工場はどこ?長州出島の場所を地図で確認
今回、三菱重工が取得したのは、山口県下関市の沖合に造られた人工島「長州出島」の産業振興用地です。
長州出島は、下関市の響灘(ひびきなだ)側に位置しています。
関門海峡沿いの市街地から少し離れた海上にあり、本土とは長州出島大橋でつながっています。
まずはGoogleマップで場所を確認してみましょう。
衛星画像で見ると、海に突き出した人工島の形がよく分かります。
島の北西側には広い産業振興用地があり、南側にはコンテナなどを扱う港湾施設が整備されています。
今回、三菱重工が取得したのは、北西側に広がる産業ゾーンの10区画、約14.4ヘクタールです。
三菱重工が取得したのは人工島のどの部分?
具体的な取得場所を確認するため、下関市の企業立地資料に掲載されている区画図を見てみます。

※三菱重工への売却決定前の分譲状況を示した図です。
図の青色で示されている部分が「産業ゾーン」です。
今回、三菱重工が取得したのは、この産業ゾーンにある11区画のうち、既に分譲済みだった11番区画を除く10区画です。
取得面積は約14.4ヘクタール。
1ヘクタールは100m×100mの広さなので、14.4ヘクタールは約14万4,000平方メートルになります。
サッカーコート(105m×68m)に換算すると、およそ20面分に相当する広さです。
かなり大きな工場用地であることが分かります。
移管元の江浦工場はどこ?現在の造船所との位置関係
今回の計画では、下関市彦島にある三菱重工・下関造船所の江浦工場から、一部の機能が長州出島へ移されます。
江浦工場の所在地は、山口県下関市彦島江の浦町6丁目16番1号です。
江浦工場のGoogleマップ
江浦工場は関門海峡に近い彦島にあり、長州出島は下関市街地の北西側に位置しています。
つまり、今回は下関市から別の県へ工場を移すのではなく、同じ下関市内で生産設備を再配置する計画です。
江浦工場はなくなってしまうの?
ここは少し誤解しやすいところです。
三菱重工の公式発表では、江浦工場の「一部機能を移管する」と説明されています。
江浦工場全体を閉鎖し、すべての設備を長州出島へ移すという発表ではありません。
新しい土地には、船体ブロックを製造する工場が建設される予定です。
船体ブロックとは、船を造る際に使う大きな部品のようなものです。
巨大な船を最初から一つの形で造るのではなく、船体をいくつもの大きな部分に分けて製造し、それらを組み合わせて完成させます。
今回の新工場は、こうした船造りの重要な工程を担う施設となります。
長州出島とは?そもそも何のために造られた人工島なのか
今回のニュースで、私が特に気になったのが長州出島そのものの歴史です。
現在は広い人工島になっていますが、もともとは自然に存在していた島ではありません。
海を埋め立てることで、長い年月をかけて造られてきました。
きっかけは下関港の新しい物流拠点づくり
下関港は、古くから日本とアジアを結ぶ海上交通の拠点として発展してきました。
しかし、関門海峡沿いには市街地が広がり、既存の港を大きく拡張することには制約があります。
また、船舶の大型化や国際貨物の増加にも対応する必要がありました。
そこで、響灘側の沖合に新たな人工島を整備する計画が進められました。
これが長州出島です。
つまり、長州出島は最初から三菱重工の工場を造るために計画された島ではなく、国際物流の拠点として整備されてきた場所なのです。
長州出島の約30年を振り返る
主な開発の歩みを、年表にまとめました。
| 時期 | 主な出来事 |
| 1991年 | 下関港の港湾計画に沖合人工島を位置付け。 |
| 1995年 | 埋立免許を取得し、建設工事に着手。 |
| 2009年 | 国際物流ターミナルの一部供用開始。 |
| 2015年 | 韓国との定期コンテナ航路が長州出島へ移転。 |
| 2017年 | 大型クレーン(ガントリークレーン)を設置。 |
| 2019年 | 産業振興用地の分譲開始。 |
| 2021年 | 新光電業が産業ゾーンの1区画を取得。 |
| 2023年 | クルーズ専用バースの供用開始。 |
| 2026年 | 三菱重工が残る産業ゾーン10区画を取得。 |
1995年の工事着手から数えると、今回の契約まで約31年が経過しています。
人工島の建設、物流施設の整備、企業誘致と、長い時間をかけて現在の姿になったことが分かります。
長州出島には何がある?産業ゾーンと物流ゾーンの違い
長州出島を衛星画像で見ると、既に建物やコンテナ置き場がある一方、広い未利用地も見られます。
実は、島の中には用途の異なる複数の区域があります。
今回取得されたのは、そのうちの「産業ゾーン」です。
産業ゾーンは工場、物流ゾーンは貨物を扱う場所
少し難しい名称ですが、簡単にいえば次のような違いです。
| 区域 | 主な役割 |
| 産業ゾーン | 工場などを建設し、製品や部品を製造する区域。 |
| 物流ゾーン | 貨物の保管や仕分け、輸送などに利用する区域。 |
| 港湾施設 | コンテナ船や大型クルーズ船などを受け入れる施設。 |
なお、企業立地ガイドの区画図では、青色が産業ゾーン、オレンジ色が物流ゾーンとして表示されています。
同ガイドに記載された分譲面積は、産業ゾーンが約14.5ha、物流ゾーンが約0.85haです。これは島全体の面積ではなく、資料に掲載された分譲対象地の面積です。
既に進出している企業もある
今回のニュースを見て、長州出島はこれまでほとんど利用されていなかったのだろうか、とも思いました。
しかし、そうではありません。
産業ゾーンの11番区画には、新光電業株式会社が既に進出しています。
同社は2021年に約7,559平方メートルの土地を取得し、2022年6月から長州出島で営業を開始しています。
また、島内には物流関連の企業も進出しており、ムロオなどの名前も確認できます。
つまり、人工島全体が未使用だったわけではなく、港湾・物流機能は既に活用されていました。
一方で、産業ゾーンには大きな未分譲地が残っていたのです。
約5年間残っていた10区画を三菱重工が一括取得
今回のニュースで、もう一つ興味深かったのが土地の分譲状況です。
長州出島の産業ゾーンは2019年から分譲が始まりました。
2021年には新光電業が1区画を取得しましたが、その後も残る10区画が分譲対象として残っていました。
そして2026年、三菱重工がその10区画をまとめて取得することになったのです。
産業ゾーンの分譲状況はどう変わった?
今回の土地取得によって、産業ゾーンの分譲状況は次のようになりました。
| 区分 | 区画数 | 状況 |
| 新光電業 | 1区画 | 利用中 |
| 三菱重工 | 10区画 | 2026年取得 |
| 合計 | 11区画 | 全区画分譲済み |
今回の契約により、産業ゾーンは区画数で見ると100%分譲済みとなりました。
ただし、土地が売れたという意味であり、既にすべての土地に建物が完成しているという意味ではありません。
実は7月には売却の仮契約が結ばれていた
10月2日の発表を見て、今回突然決まった話なのかと思いましたが、実際には少し前から手続きが進んでいました。
KRY山口放送の9月3日の報道によると、下関市は2026年7月9日、三菱重工との間で約14.5haの市有地を売却する仮契約を結んでいました。
その後、9月の市議会に売却議案が提出され、10月2日に三菱重工が正式な取得契約を発表しています。
| 時期 | 動き |
| 7月9日 | 下関市と三菱重工が売却の仮契約を締結。 |
| 9月 | 下関市議会に売却議案を提出。 |
| 10月2日 | 三菱重工が正式な取得契約を発表。 |
なぜ三菱重工は長州出島を選んだのか?
ここまで調べて、さらに気になったことがあります。
そもそも、なぜ三菱重工は長州出島に新工場を造ることにしたのでしょうか。
三菱重工の公式発表では、船舶の建造能力を拡大し、将来に向けて安定した生産体制を整えることが目的とされています。
現在の江浦工場には老朽化の課題もあり、新たな製造拠点を確保する必要があったと報じられています。
ここからは、長州出島の立地条件について考えてみます。
既存の造船所と同じ下関市内にある
一つ目は、現在の江浦工場と同じ下関市内にあることです。
新工場が遠く離れた地域に建設される場合、働く人の確保や部品の輸送、既存施設との連携など、さまざまな課題が考えられます。
その点、長州出島は同じ下関市内にあり、既存の造船事業とのつながりを維持しやすい立地と考えられます。
ただし、これが三菱重工による正式な選定理由のすべてというわけではありません。
大きな土地と港湾機能がある
二つ目は、まとまった広い土地を確保できることです。
今回取得した約14.4haという面積は、大型の製造設備を新たに配置するうえで大きな特徴になります。
また、長州出島はもともと国際物流拠点として整備されてきた人工島です。
海に面した広い土地であることも、造船関連施設の立地を考える際には注目したい条件です。
ただし、具体的な設備配置や輸送方法については、今後の発表を待つ必要があります。
海外移転や国内の別地域も候補だったの?
もう一つ、個人的に気になったのがこの点です。
造船業は世界各国との競争がある産業ですが、今回、海外に新工場を造るという選択肢はなかったのでしょうか。
また、国内の別の重工業地域などと比較した可能性も気になります。
この点について、10月3日時点で確認できる三菱重工の公式発表には、海外移転や他地域との候補地比較に関する具体的な記載はありませんでした。
したがって、最初から下関市内だけを検討していたのか、複数の候補地から長州出島を選んだのかは分かっていません。
少なくとも今回公表された計画は、江浦工場の一部機能を同じ下関市内へ移し、新工場を建設するというものです。
下関市と三菱重工、どちらから話を持ちかけた?
土地の売却について、下関市から積極的に誘致したのか、それとも三菱重工から取得の相談があったのかも気になるところです。
下関市では2019年から産業振興用地の分譲を進めており、企業誘致にも取り組んできました。
一方、三菱重工にも船舶建造能力の拡大という設備投資の目的があります。
ただし、今回の交渉がどちらから始まったのかについては、公表資料からは確認できませんでした。
双方の事情が重なって実現した土地取得といえそうですが、交渉開始の詳しい経緯については、今後の情報を待ちたいと思います。
投資額は約1,000億円!いつから工場が動き始める?
今回の計画では、三菱重工が約1,000億円を投じて造船関連設備を増強すると発表しています。
また、国土交通省から供給確保計画の認定を受けており、投資額のうち最大400億円の助成を受ける予定です。
今後の主なスケジュールは次のとおりです。
| 時期 | 予定 |
| 2026年 | 長州出島の産業振興用地を取得。 |
| 2027年 | 新工場の建設工事に着手予定。 |
| 2030年 | 新工場の操業開始を目指す。 |
なお、これらは現時点の計画であり、今後の工事の進み具合などによって変更される可能性があります。
まとめ|長州出島の新工場建設は人工島の歴史でも大きな節目に
今回は、三菱重工の新工場建設をきっかけに、長州出島の場所や歴史、土地の分譲状況について調べてみました。
最初は単純に「新工場がどこにできるのか」が気になったのですが、調べていくと、長州出島が約30年にわたって整備されてきた人工島であることが分かりました。
国際物流拠点として造られ、コンテナ船やクルーズ船を受け入れ、少しずつ企業の進出も進んできた長州出島。
その産業ゾーンに長く残っていた10区画を、今回、三菱重工がまとめて取得しました。
今後は2027年の着工、2030年の操業開始に向けて、人工島の景観も少しずつ変わっていくことになりそうです。
Google Earthなどの衛星画像でも、その変化を追っていきたいと思います。
参考資料・出典
- 三菱重工業|山口県下関市の産業振興用地を取得(2026年10月2日)
- KRY山口放送|長州出島の約14.5haを三菱重工に売却へ(2026年9月3日)
- 全国企業立地ガイド2025|下関港 長州出島(24ページ・区画図)
- 下関市|長州出島産業振興用地に関する資料
- Googleマップ|長州出島
※本記事は2026年10月3日時点の公表情報・報道・地図資料をもとに作成しています。公式発表で確認できる事実と、地理的条件などに基づく筆者の考察は区別して記載しています。



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